シンガポール移住後に医師として働くには?制度や免許に関して徹底解説
- シンガポール
- 著者:T.I
- 投稿日:2026/02/23
日本国内の医療現場で日々奮闘する医師の皆様の中には、閉塞感を感じたり、よりグローバルな環境や高待遇を求めて海外移住を検討される方も少なくない。デジタルマーケターとして移住市場の調査を行い、現地で活動する日本人医師や医療関係者にヒアリングを重ねている私、T.Iのもとにも、シンガポールで医師免許は通用するのかという切実な相談が寄せられている。
私自身、アラサーで子供を育てる親として、シンガポールの高水準な医療環境には日々助けられている。しかし、こと働く側に回るとなれば、そこには言語の壁、厳格な登録制度、そして高度な専門性を求める競争が待ち受けている。本記事では、シンガポール医科評議会の公的データと、実際の挑戦者から得た一次情報を基に、医師がシンガポール移住を実現するための現実的な道筋を解説する。
目次
シンガポール移住で医師として働くのは「極めて難易度が高いが、特定条件下で可能」
結論から申し上げれば、日本の医師免許があれば誰でもすぐにシンガポールで働けるわけではない。シンガポールでは医療の質を維持するため、外国籍医師のライセンス登録を厳格に制限している。
現実的なラインとしては、シンガポール医科評議会(SMC)が認定する日本の特定大学の医学部を卒業していることが最低条件となる。これを満たしていない場合、シンガポール国内で臨床医として登録されることはほぼ不可能に近いのが現状だ。もし臨床にこだわらないのであれば、製薬企業や医療テック、研究職といった別ルートでの移住がより現実的な選択肢となるだろう。
シンガポールの医療制度と医師の働き方
シンガポールは、公的医療機関と民間医療機関が明確に分かれたハイブリッドな医療システムを採用している。医師としての働き方も、日本とは異なる力学で動いている。
公立病院と民間病院の役割分担
シンガポールの医療は、公営の公立病院と、外資や富裕層をターゲットにした民間病院で構成されている。外国人医師が最初にライセンスを取得して働く場合、多くは公立病院での勤務からスタートすることになる。公立病院では多くの症例を経験できる一方、多忙を極める現場も少なくない。
スペシャリスト(専門医)至上主義のキャリア
シンガポールの医療現場では、ジェネラル・プラクティショナーと専門医の区分が日本以上に明確だ。特に専門医としてのキャリアはステータスも高く、年収面でも大きな差が出る。日本人医師が移住後に現地の信頼を得るには、日本での専門医資格に加え、それを英語でプレゼンテーションできる高度な臨床能力が求められる。
日本の医師免許は通用する?資格・登録制度を解説
シンガポールで医療行為を行うためには、シンガポール医科評議会(SMC)への登録が必須だ。ここで最も大きな障壁となるのが卒業大学の制限である。
SMC認定大学(承認大学リスト)の壁
シンガポール政府は、外国の医学部卒業生に対して承認大学リストを公開している。2026年現在、日本国内で認定されているのは以下の大学のみである。
- 東京大学 医学部
- 京都大学 医学部
- 大阪大学 医学部
- 名古屋大学 医学部
- 九州大学 医学部
- 慶應義塾大学 医学部
過去にはより多くの大学が認定されていたが、段階的な見直しにより現在は上位校に限定されている。リスト外の大学を卒業している場合、臨床医としてのライセンス登録は原則として認められない。
条件付き登録(Conditional Registration)とは
認定大学を卒業していても、いきなりフルライセンスは与えられない。まずは特定の公立医療機関において、監督下で2年から4年間の勤務を行う条件付き登録が必要となる。この期間中に十分な評価を得ることで、初めてシンガポール国内で自由に活動できる権利を得られる。
シンガポールで医師として働くまでの具体ステップ
シンガポール移住を目指す医師が踏むべき、具体的な5つのステップを深掘りする。
1. 自身の資格と卒業校の適合確認
まず最初に行うべきは、SMCのリストと照らし合わせ、自身の卒業大学が認定対象であるかを確認することだ。同時に、日本での専門医資格がシンガポールの専門医認定委員会(SAB)に認められるかどうかも調査する必要がある。
2. 高度な英語能力の証明
非英語圏の大学卒業者の場合、IELTS(Academic)で各項目7.0以上、またはOETでグレードB以上のスコアを求められる。これは医療現場での誤解が命に関わるため、極めて厳格に運用されている要件だ。
3. 公立病院への求人応募と内定獲得
ライセンス申請には雇用先が決まっていることが前提となる。MOH Holdingsなどを通じて求人を探し、面接を経て内定を獲得する必要がある。海外からの直接応募は難易度が高いため、現地の日本人医師ネットワークを活用するのも一つの手だ。
4. SMCへの登録申請と就労ビザの取得
内定獲得後、病院側と協力してSMCへの登録申請を行う。登録が受理されれば、次に就労ビザの申請へと進む。医師の場合、専門職としての高い給与が見込まれるため、ビザ取得自体のハードルは比較的低い。
5. シンガポールでの臨床研修・勤務開始
渡航後、指定された病院で条件付き登録医師として勤務を開始する。シニアドクターの監督下で一定期間実績を積むことが、将来的なフルライセンス取得への唯一の道となる。
年収・待遇・働き方のリアル
シンガポールの医師の経済的地位は非常に高い。日本と比較しても、特に専門医以上の待遇は魅力的だ。
| 職位 | 年収(シンガポールドル) | 日本円換算(1SGD=110円) |
|---|---|---|
| Medical Officer(若手医師) | 110,000 – 160,000 | 約1,200万 – 1,760万円 |
| Registrar(専攻医クラス) | 180,000 – 250,000 | 約1,980万 – 2,750万円 |
| Consultant(専門医・部長クラス) | 300,000 – 500,000+ | 約3,300万 – 5,500万円以上 |
QOLと勤務スタイルの特徴
シンガポールの医師は、役割分担が日本よりも明確だ。事務作業はメディカルセクレタリーが担い、医師は診断と治療に集中する環境が整っている。公立病院は多忙だが、当直の翌日はオフになるなど労務管理が徹底されている。また、所得税が最大24パーセントと低いため、手取り額は日本より格段に多くなる点が、移住の強力なインセンティブとなっている。
必要な英語力とスキル
臨床医として働く以上、英語は単なる意思疎通の道具ではなく、精密な医療器具としての正確性が求められる。
専門用語以上に重要なシングリッシュへの理解
シンガポールの公用語は英語だが、ローカルの現場では独特のアクセントや語彙を含むシングリッシュが使われる。特に高齢の患者とのコミュニケーションにおいて、相手の話し言葉を理解できないことは致命的なリスクになる。医療知識と同じくらい、文化的な文脈を含むリスニング力が重要だ。
プレゼンテーションとリーダーシップ
シンガポールの病院は、世界中から多様なバックグラウンドを持つスタッフが集まる多国籍環境だ。そこでは日本の背中を見て覚えろという文化は通用しない。自らの治療方針を論理的に説明し、多職種連携をリードする高いコミュニケーション能力が不可欠となる。
取材でわかった挑戦事例・成功例・失敗例
私がこれまでに取材した、シンガポール移住に挑戦した医師たちの生の声を紹介する。
事例1:30代専門医・内科(認定校卒・成功例)
日本の大学病院での激務と、キャリアの先行きに不安を感じていた。幸い認定校卒だったため、英語力を磨いて公立病院のRegistrarとして採用された。現在は条件付き登録の期間を終え、専門医として民間病院に移籍。年収は日本の約3倍になり、家族との時間も劇的に増えたという。
事例2:40代外科医(非認定校卒・断念例)
臨床医としてシンガポールで働くことを熱望していたが、出身大学がSMCの認定リストから外れていた。どれだけ日本での手術実績があっても、制度の壁を越えることはできなかった。最終的に、臨床を諦めて日本のクリニック経営に専念することを選択したが、もっと早く制度を調べるべきだったと振り返る。
事例3:30代皮膚科医(非認定校卒・別ルートでの成功例)
臨床医としての登録は不可能だったが、移住の夢を諦めきれなかった。自身の知見を活かし、外資系製薬企業のメディカル・アフェアーズ職としてシンガポール本社に採用された。現在は医師免許を活かしたコンサルティング業務に携わっており、年収2,000万円を超え、理想のシンガポール生活を手に入れている。
メリットとデメリット
医師としてシンガポールへ移住することの「光と影」を、各要素の見出しを通じて明確化する。
メリット1:圧倒的な低税率環境による資産形成
最大24パーセントの所得税により、可処分所得が日本と比較して大幅に増加する。住民税も存在しないため、同じ年収でも手元に残る資金のスピードが格段に早まる。
メリット2:アジアの医療ハブとしての最先端環境
世界最高水準の医療インフラが整っており、最新の医療機器や臨床研究に触れるチャンスが豊富だ。グローバルな医学的知見を深めるには最適な環境と言える。
デメリット1:極めて厳格な資格登録の壁
出身校がSMCの認定リスト外であるだけで、臨床医としての道が完全に閉ざされる。これまでのキャリアがリセットされかねないシビアな制度であることを認識せねばならない。
デメリット2:世界最高峰の生活コスト負担
家賃や教育費は日本の数倍に達する。高収入を得ていても、コンドミニアムの維持や子供のインター校費用で、支出の桁が変わるという経済的なプレッシャーは大きい。
医師以外のキャリア選択肢
臨床ライセンスの取得が難しい場合でも、医師としての専門性を活かす道は多岐にわたる。
製薬・医療機器メーカーでのメディカル職
外資系企業の地域統括拠点において、治験の監督や医学的アドバイザーを務める。臨床ライセンスなしでも、医師としての深い知見を武器に高年収を目指せるルートだ。
ヘルスケア・スタートアップの経営参画
シンガポールの活発なスタートアップシーンにおいて、医学的監修を行うCMOとして活躍する。ビジネスと医療の架け橋となるエキサイティングなキャリアだ。
アカデミア・研究機関での活動
シンガポール国立大学などの高等教育機関で、臨床ではなく研究や教育に専念する。これにはPhDやこれまでの研究実績が評価の軸となる。
よくある質問(FAQ)
移住を検討する医師から頻繁に寄せられる疑問に、事実に基づいて回答する。
日本の専門医資格はそのまま通用しますか?
SABの審査対象にはなるが、日本の制度と乖離があるため、多くの場合で現地の指導医の下での再スタートが必要となる。無条件でのスライドは難しいと考えたほうが良い。
医学部在学中に準備できることは?
認定校の学生であれば、学生のうちにUSMLEの勉強をしたり、現地の病院で臨床実習を受けることが、将来の採用において極めて有利な実績となる。
40代以上の挑戦は現実的ですか?
公式な年齢制限はないが、若手と同じ条件付き登録から始まるため、プライドを捨てて現地のシステムに適応する柔軟性が何よりも重要だ。
看護師や薬剤師の需要はありますか?
需要は非常に高いが、医師同様に評議会への登録が必要だ。特に看護師は人手不足が深刻であり、認定校の基準を満たせば採用の可能性は十分にある。
現地での医師の社会的地位はどうですか?
シンガポールにおいて医師は、弁護士と並んで最も尊敬される専門職の一つだ。高所得者層としての生活が約束される一方で、社会からの期待や責任も非常に重い。
まとめ
シンガポールでの医師キャリアは、高い報酬と国際的なステータスを約束する魅力的な選択肢だが、その門戸は決して広くはない。認定校の壁、英語力の壁、そして生活コストの壁。これらを一つずつ論理的に検証し、自身のキャリアパスと照らし合わせることが不可欠だ。
もしあなたが認定校の出身であれば、まずはIELTSのスコア獲得に全力を注いでほしい。もし認定校外であれば、臨床に拘泥せず、製薬企業や医療テックといった別ルートでの医師免許を活かした海外移住に目を向けるのが賢明な判断となるだろう。
デジタルマーケターのT.Iとして、そして一人の親として、私はシンガポールの医療の質の高さを日々実感している。その一端を担うべく挑戦する医師の皆様を、私は心から応援している。この記事が、あなたの未来を切り拓く一助となることを願っている。
